大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成10年(レ)284号 判決 1999年6月23日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は控訴人及び選定者に対し、金三二万一六三五円及び内金二〇万九四四〇円に対する平成九年一二月二日から、内金一〇万九四六七円に対する平成一〇年四月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  仮執行宣言

第二  事案の概要

本件は、被控訴人の主催する海外旅行に参加申込みをしたものの、右旅行のパンフレットに記載された東京大阪間の特定の航空便の予約ができないことが判明したため、右旅行の申込みを取り消した控訴人及び選定者福田貴美子(以下両名をあわせて「控訴人ら」という。)が、右航空便の予約も旅行契約の内容に含まれているにもかかわらず、被控訴人は、右航空便の予約ができないことを知りながら、この事実を隠し、又は十分な説明をしないまま、控訴人らに旅行契約を締結させたと主張して、詐欺または過失(契約締結における説明義務違反)による不法行為もしくは債務不履行に基づく損害賠償として、控訴人らが支払った本件旅行代金の返還、慰謝料等を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  控訴人らは、平成九年一一月二一日、被控訴人との間で、被控訴人が主催する「グアテマラとホンジュラスの旅一一日間(同年一二月二五日から平成一〇年一月四日まで)」(以下「本件旅行」という。)について旅行契約を締結し(以下「本件旅行契約」という。)、同年一二月二日までに、旅行代金合計九九万六〇〇〇円及び保険料一万二四〇円を支払った。

2  本件旅行契約を申し込むにあたり、控訴人らは、被控訴人作成のパンフレット(以下「本件パンフレット」という。)によりその内容を確認したが、右パンフレットには次のような記載がある。(甲二の2)。

(一) 本件旅行の内容を紹介したページ(二二八ページ)には、本件旅行は東京発着であるが、大阪発着、名古屋発着の場合も同一料金であること、最終日の日程欄の、「都市・交通機関」の欄に「(16:10)東京(18:20)大阪(19:35)」、同「訪問地の主なみどころ」欄に「午後成田空港に到着、航空機を乗り継いで伊丹空港に到着(各地空港へ乗継ぎ)」と記載され、日程の記載の末尾に注意書きとして「日程は、航空機のスケジュール等により一部変更となる場合がございますので、予めご了承下さい。その場合極力上記日程に従って旅行サービスがお受けになられるよう万全の手配努力を致します。」と記載されている。

(二) 日程表の見方を記載したページ(八ぺージ)には「発着地と国内線のご案内」として、「国内線は別予約が必要となり、混雑期間等の事由により予約がお取りできない場合には、他の交通機関をご利用いただくことになります。その場合の交通費、宿泊費、その他の諸費用はお客様のご負担となりますので、予めご了承下さい。なお基本的に利用便は航空会社により指定されます。」との記載があり、「移動時間」として、日程表の「都市・交通機関」欄の時間の表示は、「移動発着時間の目安として表示してあります。」等の記載がある。

(三) 旅行条件を記載したページ(二五八ページ)には、旅行契約の内容条件は旅行開始日の前日から起算して遡って三〇日目に当たる日以降旅行開始日の前々日までに解除する場合には、旅行代金の二〇パーセントを取消料として支払うべき旨の記載がある。

3  東京(成田)発一八時二〇分大阪(伊丹)着一九時三五分の航空便は、日本航空JL一五三便(以下「JL一五三便」という。)であるが、同便は一般に需要が多く、本件旅行契約締結当時から満席であった(証人平井香津美)。

4  平成九年一二月一五日ころ、被控訴人から控訴人らに対して、本件旅行の確定日程である「旅のしおり」(乙一)及び集合場所の案内(甲一〇)が送付された。右集合場所の案内には、一月四日のご利用便名として、「日本航空JL一一九便二〇時三〇分羽田発予定二一時四五分大阪着予定(関西)」と記載されていた。「旅のしおり」の中には、国内線の飛行機便の記載はなかった。

5  右書類を見た控訴人は、直ちに被控訴人に連絡し、JL一五三便を利用しないのであれば、本件パンフレットの記載と異なるので、本件旅行には参加しない旨述べた(当審における控訴人本人)。

6  控訴人の右申入れに対し、被控訴人の担当者平井香津美(以下「平井」という。)は、平成九年一二月一五日、国内線については日本航空内の調整中となっているので少し時間をいただきたい旨回答し、さらに、同年一二月二二日には、JL一五三便は確保できていないが、日本航空JL一〇九便(一九時三五分羽田発予定、二〇時三五分伊丹着予定)は確保できる旨回答した(甲一一、一二、一四の2、証人平井香津美、当審における控訴人本人)。

7  控訴人らは、同年一二月二二日、本件旅行への参加を取り消し、同月二六日、被控訴人から支払済みの代金額からキャンセル料を控除した合計七九万六八〇〇円の返還を受けた。

二  控訴人らの主張

1  本件パンフレットは被控訴人らが控訴人らに提供する運送サービスの内容を記載したものであり、本件旅行には、東京大阪間をJL一五三便を利用して移動することも含まれる。したがって、被控訴人は、控訴人らに対し、本件旅行契約の内容として、JL一五三便を提供する債務を負う。

2  本件旅行契約締結の時点で、既にJL一五三便を予約することは不可能で本件旅行契約上の債務は履行不能となっていたにもかかわらず、被控訴人は、右事実を知りながら、右事実を隠して、控訴人らをして被控訴人との間で本件旅行契約を締結せしめたのであって、被控訴人の右行為は、詐欺による不法行為を構成する。

3  控訴人は、平成九年一一月二〇日、本件旅行契約の締結に先立ち、担当者平井に対し、平成一〇年一月四日の夕方に帰ることができる旅行を紹介してほしいと述べていた。しかるに被控訴人は、本件パンフレットの記載内容、とりわけ本件パンフレットに記載された東京大阪間の航空便について変更がありうることや、JL一五三便が本件旅行契約締結の時点でキャンセル待ちになっていた事実をなんら説明していないのであって、被控訴人には説明義務違反の過失があり、不法行為を構成する。

4  被控訴人は、本件旅行契約上の債務の一部であるJL一五三便を提供する債務を、被控訴人の責めに帰すべき事由によって履行しなかったもので、本件旅行契約には被控訴人の責めに帰すべき債務不履行がある。

5  控訴人らは、被控訴人の右不法行為ないし債務不履行により、次の損害を被った。

(一) 返還されていない旅行代金残額 一九万九二〇〇円

(二) 返還されていない保険料

一万〇二四〇円

(三) 通告状その他問い合わせの郵便料金、旅行に関する解説書購入代金等 九四六七円

(四) 慰謝料 一〇万円

6  よって、控訴人は、被控訴人に対し、詐欺または過失(説明義務違反)、による不法行為、もしくは債務不履行に基づき、控訴人らが被った損害合計三二万一六三五円並びに内金二〇万九四四〇円に対する不法行為の後である平成九年一二月二日から、内金一〇万九四六七円に対する平成一〇年四月一一日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  被控訴人の主張

1  本件旅行契約は成田発着の旅行契約であり、成田空港までの往復国内便の旅行手配は本件旅行契約に付随する別個の手配契約であり、別途予約を必要とする。本件パンフレットの一一日目の欄に東京発一八時二〇分大阪着一九時三五分という記載は、あくまで大阪から国内便を利用した場合の予定の一例にすぎない。したがって被控訴人は、本件旅行契約の内容として、控訴人らに対し「JL一五三便」という特定の航空便を提供する債務を負わない。

2  参加者のために手配する国内航空便の座席は、団体客用として、被控訴人と日本航空との個別交渉によって決まる条件で提供されるものであって、本件旅行契約締結の時点で、既にJL一五三便を予約することは不可能であったとはいえない。

3  控訴人は、平成九年一一月二〇日、平井に対し、平成一〇年一月四日中に帰宅できる旅行を紹介してほしいと述べたにすぎない。

4  被控訴人の行為が、不法行為又は債務不履行に該当するという主張は争う。

四  主たる争点

1  被控訴人は、控訴人らに対し、本件旅行契約の内容として、JL一五三便を提供する債務を負うか否か。

2  被控訴人の行為が、詐欺による不法行為又は説明義務違反の過失による不法行為に当たるか。

3  被控訴人に、その責めに帰すべき本件旅行契約上の債務不履行があるか。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  前記第二、一、2のとおり、本件パンフレットには、本件旅行は、東京(成田)発着であること、参加者が大阪その他国内の各空港から成田まで国内線を利用する場合には、本件旅行契約とは別に予約が必要であること、国内線の利用便は航空会社によって指定され混雑期間等の理由で国内線の予約が取れない場合には、参加者は別の交通機関を利用して成田空港に行くことになり、その場合の費用は参加者が負担することが明記されている。

右事実によれば、国内線を乗り継いで参加する者は本件旅行契約に付随して、被控訴人との間で国内線の往復航空便の手配旅行契約を締結するものであって、被控訴人は、本件旅行契約の締結に際して、右のようなパンフレット記載の条件のもとに、国内線の往復航空便の手配を引き受ける旨の表示を行っているにすぎず、被控訴人が、控訴人らに対し、本件旅行契約の内容として、国内線の航空便を提供する債務を負うとは解し得ない。

2  本件パンフレットの中の「東京(18:20)大阪(19:35)」との記載は、時間が明示されることによって特定の航空便を利用するかのような印象を与える点でいささか不親切とのそしりを免れ得ないものの、本件パンフレットの日程表の見方の欄の「移動時間」の欄には、日程表の「都市・交通機関」欄の時間の表示は、移動発着時間の目安として表示してある旨の記載があることに照らせば、移動発着時間の目安として示したものにすぎないというべきであって、右記載をもっても、JL一五三便を提供することが、本件旅行契約の内容となるものとは解し得ない。

3  なお、控訴人らは、本件パンフレットに大阪、名古屋同一料金と記載されていることを理由に、本件旅行は大阪及び名古屋も出発地であるとし、国内線も本件旅行契約の一部をなすと主張するが、大阪名古屋同一料金との記載は単に料金が同一であることを述べたにすぎず、本件旅行において、大阪及び名古屋が出発地であるとは認められない。さらに、控訴人らは、平井がJL一五三便の予約手続きをしたことをもって、被控訴人はJL一五三便を確保することも本件旅行契約の一部に含まれると認識していたと主張するが、平井がJL一五三便の予約手続きをしたのは、JL一五三便が大阪からの参加者にとって最も便利の良い航空便だからであるにすぎず、右事実をもっても、被控訴人が、控訴人らに対し、本件旅行契約の内容として、国内線の航空便を提供する債務を負うとは解し得ない。

二  争点2について

1  控訴人らは、本件旅行契約締結の時点で、既にJL一五三便を予約することは不可能で本件旅行契約上の債務は履行不能となっていたにもかかわらず、被控訴人は、右事実を知りながら、右事実を隠して、控訴人らをして被控訴人との間で本件旅行契約を締結せしめたのであって、被控訴人の右行為は、詐欺による不法行為を構成すると主張するが、右一で認定説示したとおり、被控訴人は控訴人らに対し、本件旅行契約の内容として、JL一五三便という特定の航空便を提供する債務を負わないのであって、被控訴人の行為が詐欺を構成するとはいえない。

2  証拠(甲二の2、五、証人平井、当審における控訴人本人)によれば、次の事実が認められる。右認定に反し、控訴人は、平成九年一一月二〇日に、平井に対し、一月四日の夕方までに帰宅することのできる旅行を紹介してほしいと述べた旨供述するが、右供述は、証人平井の証言内容に照らし採用できない。

(一) 控訴人らは、被控訴人に対し、当初本件旅行とは別の海外旅行を申し込んでいたが、控訴人は、右申込みの際に、被控訴人に対して、一月五日に仕事がある旨説明していなかった。控訴人らが希望していた旅行は、参加者少数や利用航空便の座席確保不能のために中止された。

(二) 控訴人は、平成九年一一月二〇日、被控訴人に対し、一月五日から仕事に出るので、一月四日中に帰宅できる旅行を連絡してほしいと述べたが、その際具体的な帰宅時間の希望までは述べていなかった。平井は、右同日、控訴人らに対し、本件パンフレットにおいて紹介されている旅行のうち、本件旅行を含めて、一月四日までに帰国する日程で空席のある八コースを記載した書面を送付した。

(三) 控訴人らは、本件パンフレットの記載により、本件旅行に参加した場合には、伊丹空港に平成一〇年一月四日午後七時三五分に到着し、自宅に午後九時頃までには帰宅できると考え、平成九年一一月二一日、被控訴人に対し、本件旅行を申し込んだ。その際、控訴人らは、一月四日の早い時間に帰宅する必要があることや、大阪・成田間の国内線の利用について、具体的な発着便及び時刻等について申出をせず、被控訴人担当者平井も確認しなかった。また、控訴人は、平成九年一二月二日、被控訴人大阪支店に旅行残代金合計八九万六〇〇〇円及び保険料一万二四〇円を持参して支払ったが、その際にも、右申出を行わなかった。

(四) 控訴人は、一月五日に、得意先の新年の挨拶廻りを予定していた。

(五) 大阪または名古屋空港から二四時間以内の乗り継ぎ便を利用して本件旅行に参加した場合、国内線の航空運賃は無料となるが、これは航空会社が被控訴人に対し格安の料金で国内線を提供し、被控訴人が営業戦略上国内線料金を負担して参加者に提供していることによるものである。ツアー参加者のために手配する国内航空便の座席は、団体客用として、被控訴人と航空会社との個別交渉によって決まる条件で提供される。

(六) JL一五三便は、一般に需要が多く、本件旅行契約締結当時から満席であり、本件旅行契約締結後被控訴人において右便の座席確保に努めたが、控訴人らが被控訴人に本件旅行契約への参加の取り消しを伝えるまでの間、控訴人らを含む三名の座席が確保できていなかった。

3  以上の事実に前記第二、一の事実を総合勘案すると、被控訴人は控訴人らに対し、JL一五三便の利用があくまでも予定の一例を示したに過ぎず変更があり得ることや本件旅行契約締結時において右便がキャンセル待ちの状態であったことを説明してはいないが、前記のとおり本件パンフレットには予定の変更もありうることが明記されていたうえ、控訴人からは一月四日中に帰宅できることの希望が伝えられていたのみで、帰阪の時刻が具体的に示されたり、JL一五三便の利用の確実性を問われたりしたことはなかったから、被控訴人としては、本件旅行契約の相手方である控訴人らに対し、前記のような事実を説明すべき義務があったとは解されず、これをなさなかったという不作為が、不法行為を構成するとはいえない。そして、被控訴人は、控訴人の一月四日中に帰宅できる旅行という希望に沿うよう、JL一五三便の確保に努力し、右便の確保はできなかったものの、右便より伊丹着が一時間遅いにすぎない日本航空JL一〇九便(伊丹着予定二〇時三五分)を確保しているのであって、右のような被控訴人の行為に不法行為として非難されるべき点があるとは到底いえない。

三  争点3について

右一で認定説示したとおり、被控訴人は控訴人らに対し、本件旅行契約の内容として、JL一五三便という特定の航空便を提供する債務を負わないのであって、JL一五三便が提供できなかったとしても、本件旅行契約に被控訴人の責めに帰すべき債務不履行があったとはいえず、控訴人らの主張は理由がない。

第四  結論

以上によれば、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例